ビンテージ真空管ラジオ修復

ひょんなことから入手した古い時代の「真空管ラジオ」。
今回はこの真空管ラジオの修復、現代風に言うとレストアの記録です。

外見は比較的良い状態ですが、中を見るとボロボロです。もちろん動きません。
昭和12年頃製造されたナショナル製「国民受信機Z-3」というビンテージ真空管ラジオです。
ナショナルは現在のパナソニックの前身松下電器のブランド名です。
昭和12年と言うとまだ戦前で90年ほど前に作られたものです。この古い古いラジオを何としても動作させたいものです。

使用されている真空管は
・UY-57S:高周波増幅用
・UY-57S:検波用
・3YP1 :電力増幅用
・KX-12F:整流用
の4本です。
外観のほこりを取り拭いたら綺麗になりました。整流用のKX-12Fはゲッターがほとんど無くなり真空度が下がっているようです。
回路を調べましたら、回路仕様は高1ラジオ(1-V-1)でした。

中身をよく見てみるとこのラジオ、一度手が加えられているようでコンデンサ類が新しいものと交換されています。抵抗類はオリジナルのものの様ですが、さすがに昔のコンデンサは90年の年月劣化がひどかったのでしょう。
配線材料も昔のものでちょっと触るとボロボロ壊れてきます。この状態ではもう全部ばらして一から作り直すしかありません。

電源トランスもこんな状態です。
ただ内部の断線はなく絶縁抵抗も良好です。各電圧もちゃんと出ていて整備すれば使えそうです。

この当時はまだビニール皮膜の線材が登場していなく銅線に布被覆をかぶせ高周波ニスを塗付し絶縁を確保していたようです。

そして重要部品のバリコンとコイル・・・これもオーバーホールすれば何とか使えそうです。
結局完全に壊れていて使えない部品は以下の3点。
・チョークトランス:断線して使えません。現代の相当品を使います。
・再生用ボリューム:完全に壊れています。相当品を使います。
・整流用真空管KX-12F:壊れてます、どうしよう?

その他の主要な重要部品は何とか使えそうです。
・電源トランス:OK
・アンテナコイル、検波コイル:OK
・バリコン:OK
・KX-12F以外の真空管:OK
・マグネチックスピーカー:OK

抵抗とコンデンサと配線材は現代の新品と交換。

部品を全部ばらしました。錆とほこりだらけ。
こういうビンテージ物の修復はどの部品を生かしてどの部品を交換するかが難しいです。
何でもかんでも交換してしまうと違うものが出来上がります。
使えるものは出来るだけオリジナルのものを使い、どうしても使えないものは交換するというのが常道でしょうかね。

バリコンも分解して細かなところまで錆取り、掃除、オーバーホールです。
使われているビスは旧JISねじ。現代のISOネジには合いませんので、このネジを大事に使いまわさなくてはいけません。
マイナスねじなので外すのも取り付けるのも回しづらい。


シャーシーの錆がひどいので綺麗に錆を落として塗装します。

シャーシを塗装したら見違えるほど綺麗になりました。
なんとか行けそうです。

ここまで来ましたが解決していない問題が整流用の真空管KX-12Fをどうするかです。
オークションなどで入手しようとも思いましたが、整流管は酷使しやすく入手しても劣化しているものやすぐにダメになるものばかりです。
そこで、ここは割り切って整流管を使わず現代の素子ダイオードを使って整流することにします。
ダイオードと直列に1kΩ5Wのセメント抵抗を入れKX-12Fの代用としました。B電圧目標180~190Vです。
ダイオードにしましたので平滑用電解コンデンサーは大きな容量のものが使えるようになります。ここでは47μF400Vを使用しました。これで電源回路は完璧でしょう。
使わないKX-12Fはお飾りでソケットに挿しておくだけです。
元通りの完全再現回路にならず少々残念ですが、最終目的のラジオを鳴らすに向け修復を進めます。

オーバーホールした部品を取り付けていきます。
現代部品のチョークトランスと再生用ボリュームが光り輝きちょっと他の部品との差異がありすぎ。

真空管のヒーター回路は大きな電流が流れるので太めの配線を使用して配線を進めます。
今の配線材はビニール線材なので柔らかく、使用部品も小型化になったため内部はガラガラ、配線は比較的やり易かったです。

この当時はシールド線が無かったためか単線の周りにアース線をぐるぐる巻きにしてシールド効果を保っていたようです。ここはもちろん現代のシールド線を使います。
配線完了です。

まず真空管に掛る電圧を確認調整します。
B電圧は185Vになりました。
各部予定の電圧範囲で一安心。真空管も大丈夫のようです。

ドキドキしながらスピーカーをつなぎ再度電源ON、何とNHKアナウンサーの声が聴こえてきました。ちょっと感動です。
このラジオは音量調節ボリュームはありません。
その代わり再生調整用のボリュームが付いています。
検波用真空管の感度を極限まで上げるボリュームです。これを上げすぎると「ピーー」と発振してしまいます。発振する手前に合わせ込むと明瞭で大きな音が聴こえてきます。

バリコンにダイヤル文字盤を付けてタコ糸で連動して動くようにします。
この文字盤の照明は豆電球でしたが玉切れしていて点きませんでした。そこで、電球色のLED2個を代用して付けました。これで玉切れの心配はありません。

最終調整が終わったので箱に入れ完全修復完成です。

マグネチックスピーカーの音を初めて聴きましたが結構まともな音です。
マグネチックスピーカーはコイルの中に針がありコイルに音声信号が加わると中の針が振動します。その針の先に紙のコーン振動紙が接着されていて振動紙から音声が聞こえる仕組みです。

ビンテージ真空管ラジオに命を吹き込みよみがえりました。ラジオ放送がちゃんと聴けます。
この時代の真空管ラジオでラジオ受信できる完動品はそう多くはないと思います。
このラジオで戦時中の大本営発表や玉音放送そして戦後の笠置シズ子や美空ひばりを聞いたのだろうと思うとグッときますね。

今回ビンテージラジオを修復して思ったことはいろいろ工夫されていたことです。90年前にこれを作り上げた技術者は少ない物資の中、これほどのものを作り上げていたことに驚きました。
それを思うと現代は恵まれています。部品などは小さく性能が良くそして安く手に入ります。
先人の努力と経験が現在の技術のみなもとになっているのだと思います。

色々感じることが出来た修復でした。